今週の松竹梅第578号「小規模宅地特例は後出しできない?」

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今週の松竹梅第578号「小規模宅地特例は後出しできない?」

配信日:2024年7月22日

このメルマガでは、相続税の「小規模宅地等の特例」を何度も取り上げてきました。 土地評価が1億円だったとしても、特例適用で80%引きの2000万円になれば、税額に対するインパクトは計り知れません。 相続税節税と言うと、すぐ「下の世代に対する贈与」との発想になりますが、本当は、「小規模宅地特例を確実に受ける!」方が重要です。 今回は、小規模宅地特例の「当初申告要件」について注意喚起します。

【今週の松】 「小規模宅地特例は原則として後出しできない!」

小規模宅地特例とは?は今回省略します。この特例適用は非常に複雑なので、
インパクトが大きいと同時に、トラブル事例が多いです。
結論としては、相続財産に土地があったら「早めに税理士に相談すること」です。
友人知人や不動産会社に相談して結論を出してはダメです。
さて、小規模宅地特例には「当初申告要件」があります。
この意味は、「申告期限までに特例を使って申告書を提出する」ことではなく、
「最初に提出した申告書で特例を使う」ことです。
つまり、「申告期限後に最初に提出」だとしても、特例は使えます。

【今週の竹】 「当初申告要件があるため攻めの申告が必要?」

「当初申告要件」があると言うことは、更正の請求ができない、つまり、後出しができないことになります。後出しができないと言うことは、当初申告がワンチャンスなので、特例適用の可能性があれば攻める必要があります。これは、税理士側にとっては結構つらいですね。特例が使えるかどうか微妙な案件は普通にあり得ます。同居していればOK→親が亡くなる寸前の引っ越しだったら?介護のため様子を見に来て、そのまま「同居」したが住民票を移していない?同じ敷地の隣に息子夫婦が居住していて「たまに」一緒に食事している?現実には、アウトともセーフとも言える事例が多いのですが、「後出しアウト!」なのです.。「ダメモト」で特例使った場合に、後の税務調査でアウトだったら、加算税や延滞税も大きな額です。相続人側と税理士側のコミュニケーションが良くないと、攻めの申告は難しいのが現実です。

【今週の梅】 「未分割の場合のみ条件付きで後出しあり」

小規模宅地特例は、原則後出しアウトですが、唯一可能なケースがあります。 申告期限までに分割協議がまとまらず、「仮に」未分割のまま法定相続分で申告する場合です。もちろん、未分割ですので、小規模宅地特例どころか、配偶者税額軽減も使えません。 この場合は、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すると、分割協議がまとまった段階で、「更正の請求」により、特例を使うことが可能です。 現実には、この状況になると、相続人間の争いで、特例どころではありませんので長期化することがあります。 この場合、申告期限から3年経過した段階で2ヶ月以内に「やむを得ない事由がある旨の承認申請手続」なる書面を税務署に提出しないとアウトです。 ところが、税理士側が忘れた頃に、「分割がまとまりました!」と連絡があり、結局、特例が使えない事態になる事例が少なからずあるとのことです。 このケースだと、税理士側が損害賠償請求されることになります。泣

【松ちゃんの独り言】 「相続税節税の柱ではあるけれど・・・」

小規模宅地の特例は、相続税節税の柱ではありますが、税理士泣かせの特例でもあります。 それは、特例効果が大きいのに、ルール上曖昧な部分が大きくしかも「後出しアウト」のためです。 今回は、「当初申告要件」をテーマにしましたが、実は、もう一つの悩みの種「特例選択同意要件」があります。 遺言書の書き方によっては、この特例が使えなくなることもあり得ます。 「特例選択同意要件」については、次回掲載しますね。
 それでは、次回もよろしくお願いします。

松本直樹

【松本直樹のプロフィール】

1960年
石川県金沢市生まれ
1984年
金沢大学法文学部経済学科を5年で卒業(ドイツ語で1年間落第する)
1984年
太平洋証券(今の三菱UFJモルガンスタンレー証券)にて、主に債券トレーダー、デリバティブ業務に従事
1992年
証券アナリスト2次試験合格(会費未納で、アナリスト協会は退会)
1992年
太平洋証券退職後、税理士事務所へ転職
1995年
宅建主任者試験合格
1996年
税理士試験会計2科目合格
1997年
税理士試験税法3科目合格(税理士試験終了)→ちなみに法人税、所得税、消費税です
1999年
松本直樹税理士事務所として独立開業→税理士事務所の同僚(松本清美)と結婚ダブル寿退職
2006年
株式会社ケーエムエスを設立
2014年
総合コンサルチーム「みんなで顧問」結成
2016年
合同会社「みんなで顧問」設立(代表社員就任)
2018年
経営革新等支援機関認定
2023年
「マンガでコミュニケーション みんなの相続」出版