今週の松竹梅第580号「小規模宅地特例の同意要件に注意!」

ビジネスに役立つ!税務最新情報【今週の松竹梅】

今週の松竹梅第580号「小規模宅地特例の同意要件に注意!」

配信日:2024年8月5日

私のメルマガで相続税の話題を取り上げる場合は、分割(どうやって財産を分けるのか?)と、納付(どうやって税金を払うのか?)を重視しています。節税については、贈与以外それほど紹介してませんでした。(相続税の節税は、伝え方が難しいからです)今年に入ってから、小規模宅地の特例をしばしば取り上げています。理由は、税務行政と相続人の認識とのギャップが大きく、相続人が小規模宅地特例を「当たり前に使える」と誤解しているケースがあるからです。今回は、税理士でもミスがある「選択同意要件」を取り上げます。

【今週の松】 「特例を使う場合は同意書が必須!」

小規模宅地の特例を使う場合は、「特例対象となり得る宅地等を取得したすべての人の同意」が必要です。この短い文の中に、引っかかりやすいワードがあります。「なり得る宅地等」がキーワードなのです。「特例対象にした宅地等」ならば理解しやすいのですが・・・例えば、自宅Aと貸しアパートBの土地があるとして、Aは長男、Bは長女が相続したとします。この場合、特例をどう使うかどうかは、多くのパターンがありますが、最終的に土地Aのみで面積限度を使い切った場合に、特例を使っていない長女の同意は必要ないと勘違いするケースがあります。もし同意欄に長男の氏名のみで申告書を提出すると、「すべての人の同意書」を申告書と「同時に」提出することになってますので、特例はアウトになる可能性が大きいです。

【今週の竹】 「小規模特例には当初申告要件もある!」

同意書でミスすると、後出しアウトなので取り返しの付かない事態になります。例えば、この特例は自宅敷地で使うと8割引です。東京都内ですと、自宅敷地評価が普通に5000万円くらいはありそうですね。その8割4000万円がミスで課税されたら。想像するのも恐ろしい事態になります。しかも小規模宅地特例には「当初申告要件」もあります。これは、期限内申告ではなく、「最初に出した申告書で特例を使うこと」との要件です。つまり、とりあえず申告書を出しておいて、同意できたからといって、更正の請求など、特例を後出しすることもアウトなのです。

【今週の梅】 「遺言書の書き方でアウトになるケースも!」

親族間が微妙な状況だからこそ、遺言書を作成しておくケースを考えましょう。 不動産が複数ある地主が、遺留分侵害も回避した遺言書を作成したとしても、「特例対象になり得る」土地を相続した全員の同意が必要になります。 分割でギリギリ納得した兄弟でも、特例適用で揉めると同意書を添付できない事態もあり得ます。 以前、遺言書の内容が、自宅のみ記載されており、他の不動産が未分割になってしまうものがありました。 このケースだと他の不動産がアパート敷地などで、特例対象になる可能性があると、永久に特例が使えなくなる可能性がある危険な遺言書です。

【松ちゃんの独り言】 「相続財産に土地があるなら?」

今回は、相続税節税の柱となる小規模宅地特例の同意要件について注意喚起しました。 とは言え、特例そのものが複雑で適用有無判断が難しいので、同意要件まで理解するのはハードル高いですよね。 そこで結論ですが、相続財産の中に土地がある場合は、 必ず、事前に小規模宅地特例が使えるかどうか、使えるなら使えるように分割方針を決めておくべきです。 遺言書を書く際に、小規模特例まで検討している方はまれかと思います。 特に、実家の他に土地を所有している場合は、特例適用でミスしやすいので、必ず事前相談してください。
 それでは、次回もよろしくお願いします。

松本直樹

【松本直樹のプロフィール】

1960年
石川県金沢市生まれ
1984年
金沢大学法文学部経済学科を5年で卒業(ドイツ語で1年間落第する)
1984年
太平洋証券(今の三菱UFJモルガンスタンレー証券)にて、主に債券トレーダー、デリバティブ業務に従事
1992年
証券アナリスト2次試験合格(会費未納で、アナリスト協会は退会)
1992年
太平洋証券退職後、税理士事務所へ転職
1995年
宅建主任者試験合格
1996年
税理士試験会計2科目合格
1997年
税理士試験税法3科目合格(税理士試験終了)→ちなみに法人税、所得税、消費税です
1999年
松本直樹税理士事務所として独立開業→税理士事務所の同僚(松本清美)と結婚ダブル寿退職
2006年
株式会社ケーエムエスを設立
2014年
総合コンサルチーム「みんなで顧問」結成
2016年
合同会社「みんなで顧問」設立(代表社員就任)
2018年
経営革新等支援機関認定
2023年
「マンガでコミュニケーション みんなの相続」出版