今週の松竹梅第587号「具体的に事業価値を計算してみる」
ビジネスに役立つ!税務最新情報【今週の松竹梅】
配信日:2024年9月30日
前回は、第三者に対する株価、つまり事業価値について取り上げました。今回は、具体的な数値で「事業価値」を理解していただきます。取り上げた事例は、私のお客様の決算書を元に試算しました。なお、この会社の1株あたり株価は、類似業種比準方式が56万円、純資産方式が105万円、特例の配当還元方式だと12,500円です。計算方式によって、驚くほど幅広いですね。この3種の株価のうち、最も高い純資産方式の株価でも「解散価値」ですから経営者にとっては割安です。
【今週の松】 「3年分の事業利益は?」
M&A会社が、経営者にわかりやすい株価査定として持ってくるのが、「純資産+ 3年分利益」です。上記の事例会社で3年分利益を計算してみます。計算は、利益に、それぞれ同族役員の役員報酬、法定福利費、交通費、交際費、駐車場代、車両費、専用車の減価償却費など、同族役員に使った費用をすべて利益に加算します。「経営者が入れ替わったら発生しない経費」を抜き出すことがポイントです。計算の結果、最近3期分の事業価値は、1株あたり72万円でした。つまり、純資産105万円+3期分利益72万円=177万円が、第三者向けの株価試算です。
【今週の竹】 「算定根拠は状況によって大きく変わる」
今回は、わかりやすく「純資産+3年分利益」と、決算書から経営者が自分でできる計算例を取り上げました。しかし、事業内容によっては、算定根拠は大きく変わります。安定的に利益を生み出す事業構築に成功していれば、「3年分利益」は5年分、あるいはもっと長く主張できるかもしれません。創業者がいないと成り立たない事業だと、利益を計上していても、算定が難しくなります。つまり、「買い主」はカリスマ経営者ではなく、「利益を出す仕組み」に価値を求めます。
【今週の梅】 「引退が遅れるほど事業価値は下がる?」
ここまでの説明で勘の良い方は気がついたかもしれません。計算式をよく見ると、「純資産」は積み上がった残高で、3年分利益は「最近の成績」です。創業者が高齢になってくると、気力もやや衰えてきますし、ベテランスタッフも高齢化、設備も老朽化、そもそも取引先担当者も高齢化して事業にも年齢があると実感します。創業30年~40年を超えてくると、なかなか「以前の単年度利益の記録」を抜けなくなっていませんか?
【松ちゃんの独り言】 「株価の違いを理解する」
今回、実際の株価試算を取り上げました。慣れないと、同じ会社の株価が12,500円から177万円までと言われても、何が何だか混乱しますね。でも決して難しくありません。相手によって立場が違うからです。混乱したら「自宅」で考えてください。自宅を子供に渡すときと、第三者に売るときは渡す希望代金は違いますよね?事業も同じです。「自宅」と違うのは、昔と違って、子供が家業を継ぐことがレアケースになりつつあること。であれば、仕組みを整備して「早めに」「より高く」事業価値が付けばより豊かな老後になると思いませんか?
それでは、次回もよろしくお願いします。
【松本直樹のプロフィール】
- 1960年
- 石川県金沢市生まれ
- 1984年
- 金沢大学法文学部経済学科を5年で卒業(ドイツ語で1年間落第する)
- 1984年
- 太平洋証券(今の三菱UFJモルガンスタンレー証券)にて、主に債券トレーダー、デリバティブ業務に従事
- 1992年
- 証券アナリスト2次試験合格(会費未納で、アナリスト協会は退会)
- 1992年
- 太平洋証券退職後、税理士事務所へ転職
- 1995年
- 宅建主任者試験合格
- 1996年
- 税理士試験会計2科目合格
- 1997年
- 税理士試験税法3科目合格(税理士試験終了)→ちなみに法人税、所得税、消費税です
- 1999年
- 松本直樹税理士事務所として独立開業→税理士事務所の同僚(松本清美)と結婚ダブル寿退職
- 2006年
- 株式会社ケーエムエスを設立
- 2014年
- 総合コンサルチーム「みんなで顧問」結成
- 2016年
- 合同会社「みんなで顧問」設立(代表社員就任)
- 2018年
- 経営革新等支援機関認定
- 2023年
- 「マンガでコミュニケーション みんなの相続」出版