今週の松竹梅第610号「購入時契約書がみつからない場合の対応」

ビジネスに役立つ!税務最新情報【今週の松竹梅】

今週の松竹梅第610号「購入時契約書がみつからない場合の対応」

配信日:2025年3月10日

来週月曜日が、所得税確定申告書と贈与税申告書の提出期限になります。今シーズンの贈与税は、新しい贈与制度による申告元年でした。しかし、あまり浸透している感じがしません。贈与税と相続税の関係は、項目も少なくシンプルなのですが、なかなか理解できない方が多いようです。

【今週の松】 「購入時の契約書がない?」

今シーズンの確定申告は、不動産譲渡案件が非常に多く、例年の倍以上の依頼がありました。不動産譲渡で私がもっとも気にするのが、「購入時の契約書があるか?」です。不動産譲渡では、売った価額-買った価額=譲渡益に課税するのですから、買った金額がわからなければ、5%扱い(つまり95%利益)になってしまいます。現時点で12件の案件を受けてますが、このうち購入時の契約書があったのは5件でした。相続で取得した場合で、もともとの購入が昭和20年代以前だと、5%の方が有利になりますが、昭和30年代後半以降に購入した購入時契約書がないと、さて購入時価額をどう申告するか?が、私の腕の見せ所です。

【今週の竹】 「公示地価の比較で推計する」

今回、昭和45年購入の土地を売却した方がいました。購入は父であり、購入時の書類はまったく残っていないとのこと。「市街地価格指数」を使ってみようと考えましたが、昭和45年は大雑把な区分による統計なので、税務署側が納得する申告ができるか不安でした。そこで、国土交通省の公示地価を使っての推計を試しました。公示地価では、今回売却した土地に近い場所を特定して、昭和45年と現在の公示地価の変動率を算出して、売却価格を割り戻すことにより取得費相当額を計算することができました。なお、このアクションにより、5%ルールを使うよりも80万円程度節税することができました。

【今週の梅】 「他にもある!あの手この手」

他にもネット上の公表情報で購入時の不動産相場を推計する方法があります。「市街地価格指数」や「公示地価」を使う方法の他に、過去の路線価を使う方法も有効だと考えます。ただし、路線価は国税庁サイトでは7年分しか掲載されていません。路線価については、国立国会図書館サイト(デジタルコレクション)で、昭和30年分からスキャンデータを掲載しています。当時の冊子のままの画像なので、すごく検索しにくいです。

【松ちゃんの独り言】 「推計値を使う絶対条件」

今回は、不動産譲渡案件の悩みの種、「購入価格がわからない」時の解決方法についていくつか紹介しました。ただし、これらの方法を使う場合、絶対注意しなければいけない条件があります。それは、あくまでも購入時契約書がない等、購入金額がどうしてもわからなかったとの前提になります。よって、契約書があるのに、これらの推計が有利だったと申告した場合は否認されることになります。また、5%で申告してから、これらの方法が有利だと「更正の請求」をすることもできません。
 それでは、次回もよろしくお願いします!

松本直樹

【松本直樹のプロフィール】

1960年
石川県金沢市生まれ
1984年
金沢大学法文学部経済学科を5年で卒業(ドイツ語で1年間落第する)
1984年
太平洋証券(今の三菱UFJモルガンスタンレー証券)にて、主に債券トレーダー、デリバティブ業務に従事
1992年
証券アナリスト2次試験合格(会費未納で、アナリスト協会は退会)
1992年
太平洋証券退職後、税理士事務所へ転職
1995年
宅建主任者試験合格
1996年
税理士試験会計2科目合格
1997年
税理士試験税法3科目合格(税理士試験終了)→ちなみに法人税、所得税、消費税です
1999年
松本直樹税理士事務所として独立開業→税理士事務所の同僚(松本清美)と結婚ダブル寿退職
2006年
株式会社ケーエムエスを設立
2014年
総合コンサルチーム「みんなで顧問」結成
2016年
合同会社「みんなで顧問」設立(代表社員就任)
2018年
経営革新等支援機関認定
2023年
「マンガでコミュニケーション みんなの相続」出版