今週の松竹梅第597号「賃貸不動産投資スキームのツボ」

ビジネスに役立つ!税務最新情報【今週の松竹梅】

今週の松竹梅第597号「賃貸不動産投資スキームのツボ」

配信日:2024年12月9日

前回メルマガでは、「節税スキームは運だ!」などと、少々刺激的なテーマを取り上げました。節税コンサルチームに批判的な書き方でしたので、私が「節税」に消極的だと「勘違い」した読者もいるかもしれません。私は、むしろ節税にはかなり積極的な姿勢です。ただし、危険な節税スキームを経営者や地主にすすめてくるコンサルチームは嫌いです。節税スキームに絶対安全なものはありません。「魔法の杖」は存在しないとの認識で前回の続きです。

【今週の松】 「父親が入院している病室で不動産購入契約?」

前回も取り上げましたが、相続税対策でもっとも定番は、「賃貸不動産投資」です。ところが、税制改正や否認事件が多いのも賃貸不動産投資案件です。否認されやすいパタ-ンを紹介しますので、なぜ税務署とトラブルになるのか考えてみてください。まず、第一のパターンは、亡くなる直前に大きな物件を買っているケース。普通に考えても、亡くなりそうになって、(慌てて)相続税試算して、(慌てて)購入を決めた感がありますね。とすると、購入の意思決定は誰か?と税務署側は疑問に思うでしょう。実際に、過去の否認事例で、父親の入院中個室で、長男立会のもとに契約した事例が否認されています。(長男に対する貸付金扱い)これはやり過ぎですね。

【今週の竹】 「自分で購入を決めても否認」

すでに有名な事件ですが、90歳で10億5500万円借り入れて、13億8700万円の投資不動産を購入、94歳で亡くなった案件です。この申告は、投資不動産を2億3000万円で評価して、多額の借入金があったため、相続税を0円としていました。結果、総則第6項により、ほぼ購入金額に近い鑑定評価に修正され、2億4000万円の追徴課税になりました。購入から3年以上経過しており、高齢とは言え、明らかに意思決定も明確でした。しかし、金額が多額すぎることと、相続税0円、借入金10億円が、税務当局を大いに刺激したようです。これもやり過ぎですね。

【今週の梅】 「やり過ぎポイントとは?」

税法で明確に書かれているわけではありませんが、否認事例の共通点から税務当局を刺激するポイントは以下の通りです。
・亡くなる直前に購入している
・相続発生後、短期間に相続人が売却している
・借入金で購入している(稟議書に相続税対策と書かれている)
・被相続人がそれまで不動産投資をしていない
・金額規模が多額で、節税効果が大きい
まとめると、節税以外の投資目的が説得力をもって説明できるか、ですが、亡くなりそうになって慌てて実行するのでは、まさに「運」です。

【松ちゃんの独り言】 「相続税対策は事業承継と似ている」

真に有効な相続税対策は、数十年かけて行うものです。亡くなる前に慌てて着手した対策の失敗は、それまで対策に無関心だったことの罰のような気もします。一方、日本で一向に進まないM&Aや事業承継も、相続税対策と似ていますね。心身ともに充実した時期に事業遂行に前のめりで、やや衰えてから(慌てて)MA会社のパンフを眺めても遅すぎると感じています。(年末にかけて、辛口で塩対応になっていてすみません)
 それでは、次回もよろしくお願いします。

松本直樹

【松本直樹のプロフィール】

1960年
石川県金沢市生まれ
1984年
金沢大学法文学部経済学科を5年で卒業(ドイツ語で1年間落第する)
1984年
太平洋証券(今の三菱UFJモルガンスタンレー証券)にて、主に債券トレーダー、デリバティブ業務に従事
1992年
証券アナリスト2次試験合格(会費未納で、アナリスト協会は退会)
1992年
太平洋証券退職後、税理士事務所へ転職
1995年
宅建主任者試験合格
1996年
税理士試験会計2科目合格
1997年
税理士試験税法3科目合格(税理士試験終了)→ちなみに法人税、所得税、消費税です
1999年
松本直樹税理士事務所として独立開業→税理士事務所の同僚(松本清美)と結婚ダブル寿退職
2006年
株式会社ケーエムエスを設立
2014年
総合コンサルチーム「みんなで顧問」結成
2016年
合同会社「みんなで顧問」設立(代表社員就任)
2018年
経営革新等支援機関認定
2023年
「マンガでコミュニケーション みんなの相続」出版